この本で、読者からもらった感想で多かったのは「自分もこんなボロアパートに住んで、貧乏生活をしていた」というもの。その共感が僕には新鮮でした。

 僕が行く辺境は、日本人が誰も行っていないところ。つまり僕だけの特殊体験を本にしているわけです。でも、この本の反応から、特殊体験でなくても、読んで共感して喜んでもらえる物語の領域があるのだなと、実はこの本を出したときに初めて気づいたんです。

――身近な辺境というと『移民の宴』(講談社)もそうですね。在日外国人の食卓を追ったルポ。

 これは国内にいながら、ちょっとした海外旅行をしているような感覚でしたね。

 在日外国人のコミュニティーは、身近にたくさんありますから、その気になれば誰にでも触れられる世界です。しかし、それを自分にしかない視点で切り取って、物語に仕立て上げられるかが大きなポイントでした。

 これは2012年に出版された本ですが、10年前の僕だったらできなかったろうと思います。世界各地へ行って、いろいろな民族の生活を見てきた経験が役に立ちました。しかし、毎回、書くのにすごく苦労しました。

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