第6回 テングザルから問う「人間とはなにか」

 さて、「なにか言い足りないことはありませんか」と2時間以上のインタビューの最後にぼくは聞いた。

 多岐にわたる研究だから、これだけ話を伺っても話題にしていないテーマがある。てっきり、そういったもののことを話してくださるかと思ったら、松田さんはこんなふうに切り出した。

「うちの嫁さんの話はしておかないと、と思いますね。ぼくが最初のフィールドでここにいる間、一緒に来てくれたんです。結婚したのは2010年で、当時は婚約すらしていませんでした。普通に彼女という関係で、ここまでついてきてくれたんです。田舎だから、水浴びもそんなにできるかわからないからと髪まで切って、彼女なりに決意を持ってくれて……」

 松田さんが13カ月で、3500時間超の観察を達成できたのも、彼女のサポートがあってのことだったという。

「フィールドにすごい集中できて、あれだけの長い時間観察できたのは、彼女が支えてくれたからなんです。朝飯とかも、まだ暗いうちから電気のないところで、ヘッドライトをつけて作ってくれて。で、夜帰ってくると夕食ができていて……それだけじゃなく、植物をいっぱい採集してきたのを、次の日、並べて写真撮って、同定用の標本つくってくれたり」
 話の展開に面食らったものの、あまりにもの「美談」で、書いておかねばならぬ、と思ったのはこのあたりからだ。彼氏の博士論文のためにここまでやる彼女というのは、どれだけの決意を胸に秘めていたのだろう。本人に聞いていないので、一方的にその思いの深さに思いを馳せるだけなのだが。