一度だけ子牛が藪の奥に逃げ込んだ。馬に乗ったまま追っていくと威圧的になるので、いったん馬からおり、そいつの引き綱を近くの灌木の枝に結びつけ、さっき子牛がいたところにいくともういないということがあった。そのままもっと藪の奥に逃げ込まれたらぼくの乏しい経験ではアウトである。ぼくのポジションの前をいく先輩ピヨンに相談しようと藪からでるとその子牛は素早く藪を抜け出てさっさと群れのなかに戻っていくところだった。いやはやいくらか焦ったがこんなことはきっとしょっちゅうあることなんだろうなあ、と思った。

『ローハイド』のようにゆったりとならないのはそのエリアを通り抜けていくにはブッシュが込み入っているからのようだった。それにときおりそこそこ大きな沼がある。雨期の名残だろう。そういうところには沼岸にワニがずらーっと並んでいる。100匹200匹のレベルだ。牛や馬が近づいていくとワニたちはノソノソと沼の中に逃げる。危険はないがこういうのがテキサスやアリゾナと違うところだろう。

(撮影:椎名誠)(写真クリックで拡大)

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