ピヨンたちは牛の群れのまわりをある程度バランスよくとりかこみ、逃げたり隠れたりするのを見つけると追っていって隊列に戻すという仕事が基本になるが、進行方向の左後方がなんとなくぼくのポジションになっていた。本気で絶えず目をこらしていなければいけない。場所によっては埃まじりの突風も吹いてくるのでテンガロンハットの顎紐で帽子が飛んでいくのをおさえる、というのも実務的になる。最初5キロぐらいは高さ3~4メートルのブッシュの固まりがまばらにあるので牛たちはそこに逃げ込もうとする。見つけるとすぐに馬の横腹を蹴って疾走し、隠れる前に見つけてもとの隊列にいれる。本当の話、牛追いというのはかたときも油断できず、何かおきたらすぐに自分と馬を反応させないといけない仕事なのだ。

 日本人でこんなのをやった人はどのくらいいるだろうか、与えられた仕事をこなしながらぼくは思った。映画『ローハイド』みたいに、おとなしくひとかたまりになって進んでいく牛の群れのまわりをポカポカと馬をはしらせなからドラマのセリフを言っている、あこがれのあの世界とはずいぶん違う。

 それはおそらくぼくがまだこうした本格的な牛追いに慣れていないので力を適当に抜く、ということを知らない、ということもあっただろうが、誰かのミスで牛を行方不明にしてしまうと、その無くした牛の値段をピヨンが全員で弁償する、という話を事前に聞いていたからでもある。

 なんだか東洋の国からいきなり弟子入りしてきた新米がヘマをして牛の10頭でも逃げられたらたまったもんじゃない、という用心が他のピヨンたちにあるような気がした。

 けれどぼくはヘマをしなかった。

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