第20回 パンタナールで480頭の牛追い旅に出た

 2時間ほどすると馬と牛の関係もだいぶ落ちついてきて、やがて広い草原に出た。考えてみるとそこで初めて我々牛追い隊の全体の様子が見えてきたのだった。

 隊長はいちばん後ろにいて落ちついて全体を見ている。先頭はあちこちかけまわって牛やピヨンたちに常に何ごとか大声で叫んでいる副隊長格の男で、褐色のクリント・イーストウッドというところだった。

(撮影:椎名誠)(写真クリックで拡大)

 草原はまたたくさんのブッシュによって分断され、牛の群れは川が岩によってこまかく分岐するように、つまりは細流のようになって一定方向に進んでいく。

 また周囲を守るピヨンの仕事が忙しくなる。拳銃を腰にしている奴がベテランらしいとわかってきた。彼らが拳銃を必要とするのは、ひとつはなにか事件がおきて全力疾走するとき、アクシデントがおきて落馬し、鐙から足がとれない場合に馬を撃つ。そうでないとその足が使い物にならないくらい怪我したりするからだ。

 それからこのあたりにもプーマがいて稀に牛を襲ってくる。前に書いたようにパタゴニアの馬の旅のときにガウチョ(チリでのカウボーイの呼びかた)の持ち馬がプーマにやられてしまった。22口径ではプーマを1発で殺すことはできないそうだが、脅しにはなる。

 4時間進んだところで昼飯になった。けさがた馬とロバで先に行っていた食事係がちょうどいい木陰でめしを作って待っている。

 昼飯の場所はいつもそこと決まっているようだった。このルートは季節ごとに牛追いに使っているから、ベテランはルートも時間配分もみんな知っている。食事はパンにピラニアの唐揚げだった。このあたりの川にはいつでもピラニアがいるそうだ。ピラニアは骨が硬いけれど肉はうまい。醤油がほしいところだったけれど塩で食べる。水をたくさん飲め、と隊長が言った。

(次回に続く)

椎名誠(しいな まこと)

1944年、東京生まれ。作家。『本の雑誌』初代編集長、写真家、映画監督としても活躍。『犬の系譜』で吉川英治文学新人賞、『アド・バード』で日本SF大賞を受賞。近著の『わしらは怪しい雑魚釣り隊 エピソード3 マグロなんかが釣れちゃった篇』(マガジン・マガジン)、『そらをみてますないてます』(文藝春秋)、『足のカカトをかじるイヌ』(本の雑誌社)、『どーしてこんなにうまいんだあ!』(マキノ出版)、『ガス燈酒場によろしく』(文藝春秋)ほか、著書多数。公式インターネットミュージアム「椎名誠 旅する文学館」はhttp://www.shiina-tabi-bungakukan.com/