もしかすると、捕食動物としての潜在意識の前に、仲間意識が働いて、
「ソルティーしっかりしろ!」
「起きて、立ち上がれ!」
 と、ソルティーの意識を取り戻そうとしていたのかもしれない。

 真相はわからないが、その場にいたトーニャにとっては、とにかく犬たちを引き離し、興奮を抑え、ラインが絡まらないようにソルティーを切り離し、間髪を入れずに犬たちを走らせることが、最善だったのだ。

 私は、トーニャに言った。

「ソルティーに生命力があれば、必ず、橇の跡を辿って戻ってくるよ」

 私は、一縷の望みを持ってそう言ったけれど、実際には、この寒さの中での発作は、体力を消耗させてしまうものであるし、周辺の森には、いくつものオオカミの集団が生息していることも分かっていた。

 そのことを思うと、居ても立ってもいられず、橇を出して迎えに行ってあげたいところだけれど、私たちは、家でじっと待つことにした。

 ソルティーの命の底力を信じて。

「死ぬなソルティー! 自力で帰ってこい!」

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つづく

廣川まさき

廣川まさき(ひろかわ まさき)

ノンフィクションライター。1972年富山県生まれ。岐阜女子大学卒。2003年、アラスカ・ユーコン川約1500キロを単独カヌーで下り、その旅を記録した著書『ウーマンアローン』で2004年第2回開高健ノンフィクション賞を受賞。近著は『私の名はナルヴァルック』(集英社)。Webナショジオでのこれまでの連載は「今日も牧場にすったもんだの風が吹く」公式サイトhttp://web.hirokawamasaki.com/

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