とは言うものの、ソルティーの発作は、走ることで誘発されているようで、走れば走るほど、嬉ければ嬉しいほど、頑張れば頑張るほど、ぷつりと何かが切れてしまう。

 そこでトーニャは、ソルティーを起用する際に、ソルティーのペースに合う犬たちを使い、横には穏やかな性格の犬を配置するなど、細心の注意を払っていた。

 それに、トーニャの犬橇の走り方は、寄り道をしたり、休憩を挟んだりと、犬たちに無理を強いることがないので、犬たちも楽しんでいるし、喜んでいる。

 今回、ソルティーが倒れた原因は、はっきりとは分らないが、たぶん、真夜中を過ぎた頃の走行だったことが、体調に狂いを生じさせてしまったのかもしれない。

 それは、トーニャにとっても、予想のつかないことだった。

 それよりなにより、彼女にとって一番ショックだったのは、仲間である犬たちが、悶え苦しんでいるソルティーに一斉に襲いかかったことだった。

 潜在的に捕食動物としてのDNAを残している犬たちにとって、地に倒れ、目を剥き、泡をふいて痙攣しているソルティーの姿は、まるで傷を負った小動物のようなものだったのかもしれない。

 瀕死の動物は、捕食者にとっては、命を繋ぐ格好の獲物だ。

 そんな状況を目にすれば、脳の片隅にある野性のスイッチが入ってしまうのも無理がない。

 また、1匹が噛み付いたことで、集団意識が働いて、みんなで襲ってしまったのも、言ってみれば、群れを作る彼らの習性である。

 そんな犬たちの性質を考えれば、一概に責めることもできないのだ。

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