ソルティーの発作は、今に始まったことではなかった。

 体が大きく、頑丈な体つきをしているけれど、脳に小さな障害があって、子犬の頃から幾度となく癲癇(てんかん)の発作を起こしていたのである。

 トーニャは、そのことを知っていて、それでもなお、
「橇犬の子として生まれたのだから、橇犬としての生き方をさせてあげよう」
 と、面倒を見ることにしたのである。

 そうでなければ、こういった子犬は、処分の対象になっていたのだ。

 無論、トーニャのその決断に、反対する声もあった。

 真冬の厳しいアラスカの森の中では、発作をもつ犬の起用は、爆弾を抱えるようなもの。

 それが原因で、橇のコントロールを失い、木々などへの衝突や、前方の犬たちを轢いてしまうような巻き添え事故を起こし、遭難につながることも考えられるからだ。

 しかしながら、トーニャの決心には、一切の迷いがなかった。

 たとえ、集団行動が乱れる原因になるとしても、1匹の橇犬の命を、最後まで守ろうと思っていたのだ。

 それどころかトーニャは、ソルティーの頭の良さや、走るのが好きな性格を見込んで、リーダー犬としての訓練もしていたのである。

(写真クリックで拡大)

この連載の前回の
記事を見る

この連載の次の
記事を見る