カメはホントに長生きか?
ことわざに「鶴は千年、亀は万年」とあるように、昔から日本ではカメは長寿のシンボルとされてきた。カメは本当に長生きなのだろうか。
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これまでに確認されている最も長寿なカメの例は、「マリオンのゾウガメ」である。1766年、フランスの探検家マリオンがセーシェル諸島で捕獲し、モーリシャス島に持ち込んだアルダブラゾウガメの個体だが、なんと1918年まで152年間も飼育されていた。捕獲時には30~50歳ぐらいだったというから、180~200歳まで長生きしたのではないかと推測される。一般にゾウガメ類は寿命が長く、陸生のカメの中で最大級のガラパゴスゾウガメは、推定寿命が野生の状態で100歳以上。脊椎動物の中で最も寿命が長い動物と言われている。
次に寿命が長いとされるウミガメはどうか。アオウミガメ、アカウミガメ、タイマイなどに代表される、野生のウミガメの寿命はまだはっきりとはわかっていない。しかし、近年の研究で、甲長60cmのアオウミガメが90cmになるのに約23年かかった例や、甲長が30cmから75cmになるのに17年かかった例が報告されている。このように成長の速度がゆっくりであることも、カメ長寿説に結びついているのかもしれない。
ウミガメ類は成熟した後もかなり長く生きると考えられており、推定寿命はアオウミガメ、アカウミガメで70~80年ぐらい、タイマイで30~50年ぐらい。ちなみに飼育下の個体ではあるが、徳島県の「日和佐うみがめ博物館カレッタ」では、昭和25年(1950)生まれのアカウミガメ「浜太郎」が今も健在だ。
日本人の平均寿命は男性79.94歳、女性86.41歳(2013年厚生労働省「平成24年簡易生命表」)である。ただし、これは医療が発達した現代の数字。野生の厳しい自然環境にもかかわらず、同じぐらい生きるウミガメやリクガメもいる。マリオンのゾウガメにいたってはほぼ倍の時間を生きた。世界史の主な出来事に照らせば、フランス革命以前に生まれて第一次大戦ごろまで。日本史なら江戸時代の中ごろから明治維新、日露戦争を経て、関東大震災ぐらいまで生き抜いたことになる。
生きもの全体を見回せば、たとえば500歳を超える貝など、もっと長く生きる動物はいる。しかし、脊椎動物では最長を誇る。カメの寿命をちゃんと測ったとは到底思えない昔の人が言った「カメは万年」という表現はオーバーにすぎるにせよ、カメはイメージだけでなく、やっぱり本当に長生きなのだった。
(文・腰本文子)
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