レーザーで遺跡をデジタル保存

特集ダイジェスト

歴史的建造物や遺跡の姿を、永遠にとどめたい――そんな考古学者の夢をかなえる最新テクノロジー、3D(三次元)デジタル画像の作成現場を取材した。

 歴史的建造物や遺跡を永遠に保存しようと、最新テクノロジーを用いた3Dデジタル画像の作成が進められている。精緻な3Dデータは研究に役立つだけでなく、貴重な文化財に万が一のことが起きた場合に、復元する際の力にもなるのだ。

 インド北西部、サラスワティ川の近くにある井戸の名は、ラニ・キ・バブ(女王の階段井戸)。11世紀後半にウダヤマティ女王が亡き王をしのんで建造させたものだが、度重なる洪水により、14世紀にはすでに土砂に埋もれていた。
 インド政府の考古調査局がその発掘に着手したのは1960年代に入ってからのこと。地中に眠っていた、見事な装飾の施された階段井戸を発見した人々は、驚愕したという。

「写真で見るのと、実物を目にするのでは大違いです」と、英国グラスゴーの考古学者リン・ウィルソンは言う。
 彼女の職場は歴史的建造物などをデジタル情報として記録したり可視化したりしている研究センターで、政府機関ヒストリック・スコットランドと、グラスゴー芸術大学のデジタル・デザイン・スタジオが共同で運営している。

 ウィルソンらは、世界遺産などのデジタル化を手がける非営利団体サイアークと連携し、あるプロジェクトに取り組んでいる。
 最新のデジタルスキャン技術を駆使して、ラニ・キ・バブ遺跡を3D画像として保存するのだ。

 ラニ・キ・バブの壁にはヒンドゥー教の神々や精霊たちをかたどった精緻な彫刻が、幾層にもわたって施されている。貴重な彫刻を守るため、専門家たちはデジタルデータの作成と保存を進めている。

 彼らはこれまでに、スコットランド・オークニー諸島の立石群や米国のラシュモア山などさまざまなプロジェクトを手がけてきたが、ラニ・キ・バブは特に困難な案件だという。

 正午過ぎには機材が届いた。これから2週間、作業は暑さとの闘いになるだろう。各種の電子機器には日除けをさしかけ、強烈な日差しから守るよう気を配る。そのうえで、邪魔なやじ馬を追い払いながら、階段井戸の表面にレーザー光線を照射し、3Dスキャナーによる計測を進めなくてはならないのだ。

 今回のインドでの現地作業は、世界的に価値の高い文化遺産10カ所を仮想空間に再現するプロジェクト「スコティッシュ・テン」の一環として実施された。サイアークはこのプロジェクトに不可欠な存在で、各地の組織と協力して、世界の遺跡をデジタルスキャンしてきた実績をもつ。
 そのなかにはイタリアのポンペイ遺跡や、メキシコの都市遺跡チチェンイツァも含まれている。

 スコティッシュ・テンは最近、中国にある清東陵(清の皇帝陵墓群)での作業を完了。サイアークは今後5年間で500カ所の文化遺産をスキャンする予定だ。

※ナショナル ジオグラフィック12月号から一部抜粋したものです。

編集者から

 文化財の保存以外でも、医療や映画製作の現場など、身近なところで活用され始めている3Dスキャン技術。3Dスキャナーと3Dプリンターを使って自分や家族のフィギュアを作れるサービスも生まれているようです。人間もいいけれど、家族同然のペットを3Dデータで残したいと思う人もきっと多いはず。わが家のセキセイインコもスキャンしてみたいものです。(編集M.N)

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