「何かあったの?」
私はもはや、それを聞かなければ、とうてい眠りに戻れやしない。
けれど、トーニャはうつむいたままで、深いため息をついた。
そして、ぽつりと小さく呟いた。
「ソルティーを残してきた……」
「え?」
私はそう聞き返しながらも、心のどこかで、誰かのお宅にでも預けてきたのだろうと思った。
が、次の言葉を聞いて、錆びた杭でも胸に打ち込まれるような痛みが心の中に走った。
「森の中に、置いてきた……」
「ええ?」
トーニャのその言葉は尋常ではなかった。私は意味が分からず、動揺して声を荒らげた。
「どうして? ソルティーに何があったの?」
トーニャは、まるで沈んでしまった船のように、深く静かに意気阻喪していて、迫り尋ねる私の顔を見て、やっと口を開けた。
「走っている最中にね…、突然、ソルティーが倒れて、癲癇の発作が出てしまったの……」
「…………」
私は、言葉にならず息を飲んだ。