第67話 寒く暗い森の中に、置き去られた命

 発作で悶えるソルティーは、勢いのついた犬たちに、ずいぶんと引きずられたようだった。

 頭につけたヘッドランプだけで走っているトーニャには、その様子がしばらく見えなかった。

 気がついたのは、仲間の犬たちが困惑して足を止め、後方から犬たちを轢きそうになったからだった。

 無事にブレーキをかけて橇を止め、トーニャは、悶え横たわるソルティーに駆け寄ると、今度は、いきなり仲間の犬たちが異常な興奮をみせて、一斉にソルティーに噛み付き、襲いかかったのだという。

 暗闇の中で、なにがなんだか分からないトーニャは、必死に犬たちを引き離し、ソルティーのハーネスを外すことしかできなかったという。

 そして、犬たちの興奮を治め、統制を図るために、そのまま立ち去ってしまったのだった。

「ソルティーは、あのままではきっと、体温を失って死んでしまうわ……、それか、オオカミの集団に見つかって、食べられてしまう……」

 自分を責めるように、トーニャは頭を抱え込んで、再び深くうつむいた。

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つづく

廣川まさき

廣川まさき(ひろかわ まさき)

ノンフィクションライター。1972年富山県生まれ。岐阜女子大学卒。2003年、アラスカ・ユーコン川約1500キロを単独カヌーで下り、その旅を記録した著書『ウーマンアローン』で2004年第2回開高健ノンフィクション賞を受賞。近著は『私の名はナルヴァルック』(集英社)。Webナショジオでのこれまでの連載は「今日も牧場にすったもんだの風が吹く」公式サイトhttp://web.hirokawamasaki.com/