File8 巨大探査船「ちきゅう」を動かす3人の男

第2回 「ちきゅう」、南海トラフで黒潮と闘う

 これかな? これかな? と船上代表はかなり小刻みに船を動かすよう、ドリラーズハウスから操舵室へ指示を出す。

 ようやく見つかっても、こんどは直径わずか50センチの孔に、温度計入りパイプ(直径11センチ)を入れなくてはならない。それも7000メートル上にいる船を動かして。
 気が遠くなりそうだ。

世界記録を更新

掘削孔に温度計を挿入する(提供:JAMSTEC/IODP)(写真クリックで拡大)

 それでも孔を捕らえ、入り始めると、ドリラーズハウスで水中カメラの映像を見つめる人たちから、「よし、よし、よし」と声が響く。

 仕事はまだまだ終わらない。今入ったばかりの先端部分が、一番深いところに達するまで、そして、その温度計を海底で切り離すまで気を抜けないからだ。

 温度計の設置が終わったのは、孔を探しを始めてから13時間半後。水深6897.5メートル+掘削深度854.81メートル、使ったドリルパイプの長さは、計7752.31メートルになった。これも世界記録を更新。

 猿橋さんは、「このときは、『やったぜ』って(海上で電波の入らない)携帯であちこちにメールしたい気持ちになりましたよ」という。

 なお、この温度計は、2013年4月に無事回収された。9カ月分の温度データもばっちり記録されている。なぜ温度を測るのかというと、それは、断層が動くと摩擦熱が発生するので、どれくらいの温度なら、どれくらい断層が動いたかがわかるからだ。つまり、どのような海底下の動きが巨大津波を発生させたのか、その仕組みの理解につながるのだ。

9カ月間設置した温度計を回収する無人探査機「かいこう7000II」(提供:JAMSTEC)(写真クリックで拡大)