などと勝手に想像して笑っていると、トーニャはおもむろにナイフを取り出して、乾燥と凍傷でゴワゴワになった表面部分を剥がしはじめた。

 そして、赤身の部分が出てくると、まるで生ハムをスライスするかのように薄く削いで、それをオリーブオイルにつけて食べた。

「え、生?」

 私は目を見開いた。

 アメリカ人であるトーニャが、肉を生で食べるなんて!

(写真クリックで拡大)

 これまで私は、日本の生食文化に対して、北米人たちから理解ある言葉をもらったことがない。

 ほとんどの北米人は、生で食べることは、不衛生で危険なものと思っていて、人類だけが使うことができる火を使わないなんて、野蛮な行為同然と思っている人も多い。

 しかしながら、ムースの生肉を口に入れたトーニャは、まるで寿司屋で特上のトロを食べている日本人と同じように、とろけて幸せな顔をしていた。

「ちょっと、ちょっと、私にもちょーだいよ!」

 生食は、もともと日本人とエスキモーの専売特許でしょ! と言わんばかりに、私は肉に手を伸ばした。

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