しかしながら、私はじっと耐えた。

 文明高い人間に生まれたのであるから、ここはオオカミ人間などになってはいけない。

 トーニャもまた、肉の表面を指で押して解凍の度合いを確認しながら空腹に耐えていた。

「お、少し弾力が出てきたよ!」

「なになに! おっ! 本当だ!」

 さっきまでカチンカチンで、凶器のように硬かったムースの脚が、まるで肩でも揉むかのように弾力が出てきた。

 このくらいのモミモミができれは、ナイフを入れることもできる。

「さてさて、今日は焼肉か?」

 私は生唾をごくりとさせながら考えていると、トーニャがいきなり、「うはは」と含み笑いをしながら小走りにキッチンへと走って行った。

 そして、「うはは」と戻ってくると、胸に大きなオリーブオイルの瓶を、さも大事そうに抱えて来た。

「まさか、そのオリーブオイル、この脚に塗るの?」

 なぜだか私は、ビーチでサンオイルを塗るビキニ女性の脚などを想像していた。

 オイルを塗ると艶が出て、さぞぴちぴちの美脚になるに違いない。

 でも、ムースの脚はスプリンタータイプで筋肉質だから、きっとボディビルダーみたいになってしまうだろうなあ。ははは。

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