第66話 やっぱりこの食べ方が一番だぜぃ!
“A watched kettle never boils.(見ているヤカンはなかなか沸ない)”なんてことわざがあるけれど、見ている冷凍肉も、なかなか解凍しないものだ……。
肉に飢えている私たちは、まるで目から光線でも出ているかのように、その肉をじっと見つめているのだけれど、視線というものは、まったくもって解凍の手助けにはならず、待つ身のツラさをモヤモヤ、ヤキモキしながら実感していた。
「ストーブの前に置いちゃう?」
これが、スーパーで買ってきたパック詰めの肉ならば、電子レンジに入れて、解凍ボタンを押すだけなのだけれど、鹿の足一本入るような電子レンジなどあるはずもなく……、
だったら、かっかと燃えるストーブの前で強制解凍してしまえぃ!と、私はこの受難のような時間から逃れる最善な妙案のようにトーニャに言った。
ところが彼女は、肉をストーブの前に置くことを嫌い、このまま室温の自然解凍にしようと言う。
ストーブ前強制解凍と、玄関での自然解凍では、そんなに違いが出るのだろうか?
確かに、刺身に使う冷凍マグロを、てっとり早くストーブの前に置いて解凍したら、味が落ちてしまう気がするけれど、肉は結局、焼くなり煮るなりしてしまうのだから、多少乱暴でもいいんじゃないの? と私は思っていた。
それに、電子レンジでの解凍でも、少し表面に火が通ってしまったり、臭みが出てしまったりすることもあるが、それは、その後の調理法と調味料の使い方次第でなんとかなるものである。
もちろん、頑張って自腹で行った高級レストランで、そのような肉のステーキが出てきたら、私はむむむ! と怒るに決まっているけれど、今回の場合は特別で、急に急を要する事態なのだ。
何を隠そう私は、あまりにも肉に飢え過ぎて、一触即発、野獣に変身するギリギリの精神状態なのだった。