美しいだけじゃない! 実は医薬品の宝庫でもあるサンゴ礁

写真=David Doubilet
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 熱帯、亜熱帯の浅瀬の海に広がるサンゴ礁は、“生物の宝庫”と呼ばれるほど多様な生物で満ちている。一度、スキューバダイビングで潜れば、その美しさに魅了されるに違いないが、サンゴ礁が私たちにもたらしてくれるのは、美しい景観ばかりではない。病気の治療に使う薬を私たちにもたらしてくれているのだ。

 例えば、アメリカで利用されている鎮痛剤のジコノタイドはサンゴ礁に生息する巻貝の一種イモガイから抽出されたコノトキシンと呼ばれる物質が素になっている。イモガイは夜に寝ている小魚にそっと忍び寄ってコノトキシンを注入して、小魚が麻痺したところを丸呑みする。コノトキシンには神経の情報伝達を遮断する作用があるため、小魚を麻痺させることができるのだが、このことに注目して痛みの情動伝達を遮断するようにコノトキシンを改良したことで鎮痛剤のジコノタイドが開発された。

 また、サンゴからも新薬候補となる化合物が抽出されている。沖縄近海に生息するシヌラリアというサンゴから発見されたアシルスペルミジンは強い抗ガン作用を持っており、人間のガン細胞で試してみたところ、1mlあたり40ナノグラム(ナノグラムは10億分の1グラム)という低濃度でもガン細胞を死滅させられることが確認されたという。

 この成果は培養器の中のガン細胞にアシルスペルミジン溶液を与えた結果であるため、人間のガン患者に処方するには厳密な臨床試験を行う必要があるが、すでに特許化されており、今後の実用化研究が待たれるところだ。

 こうした新薬候補物質が新たに発見されることも期待されているが、沖縄に限らず世界中のサンゴ礁は、今や危機的な状況にあると言っても過言ではない。サンゴに共生する褐虫藻が減少したことによる「白化現象」が広い海域で発生し、サンゴの死滅が確認されている。サンゴを食べるオニヒトデによる被害も深刻で、このままでは多くのサンゴ礁が失われかねない。

 その美しさから私たちを癒してくれたサンゴ礁。新たに将来の薬の候補物質も与えてくれようとしている。なんとか保全していきたいものである。

(文=斉藤勝司)