第12回 辛すぎるほどご飯がすすむ!ブータン料理

 いっぽう、ブータンは国のほとんどを山と谷が占め、農地は約15%(FAO調べ)しかない。実際、日本人で農業の専門家だった故・西岡京治氏が1964年にブータンで農業指導を始めるまで、食糧自給率は60%程度しかなく、栽培する野菜の種類もかなり少なかったという。つまり伝来当時、野菜が少なかったブータンにおいて、高地で痩せた土地でも比較的栽培が容易である唐辛子は、瑞々しい野菜としてブータン人の心を掴んだのではないだろうか。

 それから唐辛子に含まれる成分、カプサイシンの食欲増進効果もあるかもしれない。辛いとわかっているのに、汗をかいているのにエマ・ダツィを食べる箸が止まらないのだ。ただ、刺激のせいで少々胃が重くなってきた。それをレキさんに言うと、「私たちも同じですよ。あまり食べ過ぎると胃を傷つけるみたいで、両親やお医者さんに食べるのを止められたりします。でも、食べちゃうんですけどね(笑)」

 ブータンの料理は確かに辛い。でも、「世界一辛い」ではなくて「唐辛子を愛する心は世界一」と言ったほうが正しいのではないだろうか。外はまだ雨が降っていて寒かったが、エマ・ダツィのおかげで身体は温かかった。翌日のトイレをちょっと心配しつつも、軽い足取りで帰路についたのだった。

やはりブータンでよく食べられている「モモ」。皮の厚い蒸し餃子のような料理で具はさまざまだが、レキさんはチーズが入ったモモが好きだという。辛くはないがお好みで「エゼ」(奥の小皿)という唐辛子から作る薬味をつけて食べる
「ガテモタブン」は日本では唯一だというブータン料理の専門店。できるかぎり現地の味付けを忠実に再現している

ガテモタブン
東京都渋谷区上原1-22-5
電話:03-3466-9590
ホームページ:http://www.gatemotabum.com

中川明紀(なかがわ あき)

講談社で書籍、隔月誌、週刊誌の編集に携わったのち、2013年よりライターとして活動をスタート。何事も経験がモットーで暇さえあれば国内外を歩いて回る。思い出の味はスリランカで現地の友人と出かけたピクニックのお弁当とおばあちゃんのお雑煮