第65話 早くかぶりつきたい……その美脚!

 それにしても、その肉のかたまりを肩で引っ張ってきたトーニャの姿は、たくましい。

 まるで、マンモスを倒して、その肉を持ち帰ってきた原始人パパである。

 今では、獲物を持って帰るどころか、給与袋という社会習慣もなくなったために、父親の一番の見せ場がなくなってしまったこの現代において、なんとスバラシイ光景だろうか。

 もちろんトーニャは父親でも、男でもないのだが……。

 しばらく肉を食べていない私にとっては、トーニャもその肉も、神々しく輝いていた。

 私は、神前にひざまずくようにその肉に近寄ると、懐かしむように、しみじみと表面を撫でた。

 すると、トーニャは苦笑いをして言う。

「この肉はね、ミッキーさんとジュリーさんが、冬のはじめにムースを狩ってきたときに頂いたものよ。忘れてたわ」

 なな、なんと。忘れていただなんて。

 もっと、早くにこの肉と出会いたかったわ……。私はガクリとうなだれて言った。

 マイナス40℃以下の世界ともなると、わざわざ電気冷凍庫で食料を冷凍保存する必要もなく、トーニャはその肉を、使っていない小屋の床にごろんと放置したままにしていた。

 あまり料理をしないトーニャは、そのことをすっかり忘れてしまっていたのだ。

 おおお~、ミッキー&ジュリーさん、ありがとう。

 そして、今まですっかり忘れていて、食べずに残しておいてくれたトーニャにも、ありがとう。

 私は、3人の女性に感謝の気持ちで一杯だった。