第4回 宇宙生物学の研究者がなぜ建設会社に入ったのか

 閑話休題。

 宇宙工学者で、宇宙生物学者で、建設会社の研究者である石川さんのもとに、宇宙エレベーターの話題が、それこそ蜘蛛の糸のように降ってきたのが、今世紀になってから。まさに宇宙工学の本道ともいえる検討課題だ。

「久しぶりに、古巣の宇宙工学の関係の論文をまとめて読みまして、面白かったですよ。それで、実際に構想を発表して、いろんな場に行くようになると、この頃は疎遠になっていた古い研究者仲間とまた会ったりして、世間は狭いなと思ったりもしてます」

 そのようなわけで、研究者・企業人としての石川さんの、宇宙工学をめぐるサイクルがぐるりと1周した感があるわけだ。そして、企業人であることと、自分がやりたい指向性とが、必ずしも一致しないという、よくある現象について、考えてしまった。石川さんは、汚染土壌の浄化や、大気環境の改善の研究をしながらも、心の中ではテラフォーミングについての考えをあたためていたという。そして、10数年の時を経て宇宙エレベーターの構想を取りまとめる機会を得た。これから、企業に勤務する、若い人たち、とりわけ特定ジャンルへの深い思いがある人たちへ、何か助言はあるだろうか、とふと思ったのだった。

「宇宙エレベーターのことを、高校生、大学生に話をする機会が随分あるんです。中には熱狂的にのめりこむ方がいて、これを自分の仕事にしたいっていう人もいるんです。例えばうちに内定が決まってる学生さんも、ぜひ会社に入ったら宇宙エレベーターやらせてほしいんですって目をウルウルさせていう人がいます。でもね、自分で子どもや学生さんたちに夢を語っておいて矛盾してるんですけども、現実にそういう方が宇宙エレベーターを本業でやってくっていうことに対しては、私はむしろ抑えるべきだと思うんです」

 その真意は……。もちろん、企業人として、常に自分の関心だけを優先できるわけではない、ということもある。

 それに加えて──

「宇宙エレベーターの実現は、別にレールが敷かれているわけじゃないし、ポシャるかもしれない確率もかなりあるプロジェクトなんです。それに命をかけるのも、ヒロイックでいいかとも思うんですけども、ちょっと人生考えたときに、それは違うんじゃないかと。もっと幅広い技術を身につけて、広い視点で見たほうがいいんじゃないかっていうことは言ってます」

 と、きれいにまとまった感もあるのだが、どうしてもひとつ確認したいことがある。

「レールが敷かれているわけじゃない」という宇宙エレベーターの実現の可能性は、今の所、どの程度なのだろうか。どんなことがネックになっているのだろうか。

つづく

石川洋二(いしかわ ようじ)

1955年、静岡県生まれ。株式会社大林組 エンジニアリング本部 環境技術第二部 上級主席技師。工学博士。1978年、東京大学工学部航空学科卒業。1983年、東京大学工学系大学院航空学専修博士課程を修了後、東京大学宇宙航空研究所、レンスラー工科大学、NASAエイムズ研究センターを経て、1989年、株式会社大林組に入社。月惑星居住計画、地球環境工学などに携り、2013年より現職。宇宙エレベーター建設計画プロジェクトのリーダーを務めている。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。サッカー小説『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)はNHKでアニメ化され、「銀河へキックオフ」として放送された。近著は、独特の生態系をもつニュージーランドを舞台に写真家のパパを追う旅に出る兄妹の冒険物語『12月の夏休み』(偕成社)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)、中学生になったリョウが世界を飛び回りつつ成長する姿を描いた切なくもきらめく青春物語『リョウ&ナオ』(光村図書出版)。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider