第3回 10兆円を宇宙エレベーターにかけるワケ

 さらに静止軌道ステーションに関連して、重要な事柄がある。これは、宇宙エレベーターを作るモチベーションに関するものだ。作ってしまえば、大変便利なのは分かっているのだが、しかし、数々の技術的困難を乗り越えて、多額の投資をしてまで、作るべきなのかという疑問は当然出てくる。技術開発、建設のコストを考えたら、今のロケットを改良して使い続けた方がよいのではないか、という意見に対して、「そんなことはない」と言えるだけの材料。これについては、宇宙エレベーター関係者はだいたい共通した見解を持っているそうだ。

「まず宇宙エレベーターの建設費について大ざっぱな試算はしていまして、10兆円ほどと見ています。これは巨額ですが、例えばアポロ計画にかかった費用って、今の通貨価値になおすとそれくらいなんですね。では、アポロに匹敵する動機として、なんのためにこれをするのか、ということになった時に、提案できるのは、宇宙太陽光発電システムです。ソーラーパネルを宇宙で展開して地球に送電するのですが、ロケットを使って運んでいてはとてもペイできないと私たちは考えていて、宇宙エレベーターとお互いに補完し合う、表裏一体でつくるものだと思っています」

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 静止軌道上に太陽光発電パネルを展開して、そこでできた電力をマイクロ波などで地上に送る構想は、世界中で考えられているが、いまだ実現していない。宇宙なら昼夜も天気も関係なく24時間発電できる。姿勢制御などのためにメンテナンスが必要だが、それも宇宙エレベーターの近傍に置けば、比較的簡単だ。

「5ギガワットの宇宙太陽光発電を想定しています。これは送電ロスなどをさっぴいて、地上に伝送された時点での電力です。1ギガワット級の原子力発電所数個分ですね。そのためには、5万トンくらいの資材を静止軌道に上げなければならないんですが、それを数基宇宙エレベーターで運んで作ったとして、30年運用すればペイできるという試算です」

 さて、エネルギー問題にまで、宇宙エレベーターはかかわってくることが分かった。ソーラーパネルはやろうと思えばもっと広い面積に展開できるし、宇宙エレベーターが1つである必要もない。宇宙からの電力調達は、充分な動機付けになりうるだろうか。

つづく

石川洋二(いしかわ ようじ)

1955年、静岡県生まれ。株式会社大林組 エンジニアリング本部 環境技術第二部 上級主席技師。工学博士。1978年、東京大学工学部航空学科卒業。1983年、東京大学工学系大学院航空学専修博士課程を修了後、東京大学宇宙航空研究所、レンスラー工科大学、NASAエイムズ研究センターを経て、1989年、株式会社大林組に入社。月惑星居住計画、地球環境工学などに携り、2013年より現職。宇宙エレベーター建設計画プロジェクトのリーダーを務めている。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。サッカー小説『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)はNHKでアニメ化され、「銀河へキックオフ」として放送された。近著は、独特の生態系をもつニュージーランドを舞台に写真家のパパを追う旅に出る兄妹の冒険物語『12月の夏休み』(偕成社)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)、中学生になったリョウが世界を飛び回りつつ成長する姿を描いた切なくもきらめく青春物語『リョウ&ナオ』(光村図書出版)。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider