第64話 血に飢えた美女?が発した野獣の雄叫び

 そのことを、私はミッキー&ジュリーさんの家から戻ってくると、さっそくトーニャに言った。

「そろそろ、食料が尽きてきたよ」
「え?本当???」
「秋に捕った魚も、もうないよ」
「えええ、本当!」

 あまり料理をしないトーニャは、貯蔵や在庫のことに、少しうといところがある。

 だからトーニャがまた子犬を貰い受けたいと言ったとき、私は、小作で貧しい農家なのに、また食いぶちが足りなくなると、てんてこまいになっている日本の古い時代を想像して、反対する気持ちになったのだ。

 優先順位の高い犬たちには、精肉工場から下げてきたくず肉をたっぷりとドロドロスープに入れてあげているのだが、私たちはというと、ほとんど肉を食べていなかった。

「そろそろ、肉が食べたいね……、肉を食べないと、やっぱり力が出ないな~」

 私はふと、ぽつりと零した。
 すると、

「肉ね、あるよ」
「え?あるの?」
「あるよ!」

 そう言ってトーニャは、突然何かを思い出したように、「うおおお」と雄叫びをあげて、取るものもとりあえず、薄い室内着のまま極寒暗闇の外に出ていった。

 そしてしばらくすると、玄関のドアがダン!と開いて、なにやらロープを肩で引っぱっているトーニャが立っている。

 そのロープの先にあるものを見ると――、

 おおお!
 おおお!
 おおおおおお~

 まるで血に飢えた野獣のように、私も雄叫びを上げたのだった。

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つづく

廣川まさき

廣川まさき(ひろかわ まさき)

ノンフィクションライター。1972年富山県生まれ。岐阜女子大学卒。2003年、アラスカ・ユーコン川約1500キロを単独カヌーで下り、その旅を記録した著書『ウーマンアローン』で2004年第2回開高健ノンフィクション賞を受賞。近著は『私の名はナルヴァルック』(集英社)。Webナショジオでのこれまでの連載は「今日も牧場にすったもんだの風が吹く」公式サイトhttp://web.hirokawamasaki.com/