第11回 ハイジで見た憧れのチーズ料理

 では、なぜ日暮里なのか。話は10年以上前に遡る。山手線全駅を徒歩で一周しようと思い立ち、東京駅から外回りに歩いていた私と友人は、西日暮里駅から上野駅にかけての風情ある町並みに魅せられ、中に入り込んだのだが、道に迷ってしまった。とにかく高台に行けば線路の方に戻れるはずだと、へとへとになりながら歩いていたとき、目に飛び込んできたのがスイスの国旗だった。

 寺町の中にハーブに囲まれたスイスの山小屋が現れるという不思議な光景。そんなスイスカフェ「シャレー スイス ミニ」で休憩すると長距離を歩いてきた疲れは吹き飛び、心身の隅々まで癒された。以来、私は密かにこの高台を東京のアルプスと呼んでいるのだ。

 そしてまた日暮里界隈をふらふらしているうちに迷ってしまったのだった。坂道を上ってようやくカフェにたどり着くと、昔と変わりないログハウスの入り口でスイス人のパッシュ・デニーさんが出迎えてくれた。来日20年以上というデニーさんは、1998年からこのカフェを営んでいる。さっそく、ハイジの食べ物について尋ねると、デニーさんはすぐにピンときたようで、こう教えてくれた。

 「ラクレットですね」

 フランス語で「削る」という意味の「ラクレ」に由来しているんですよ、とデニーさん。「チーズの断面を温めて溶けた部分を削り落とし、食材にからめて食べる料理です。パンよりジャガイモの方が一般的で、生ハムなどのときもある。スイスでは全国どこでも日常的に食べられていますよ」

アルプスの山小屋をそのまま小さくしたような雰囲気の「シャレー スイス ミニ」
庭には100種類以上のハーブが栽培され、四季折々に花を咲かせる