第11回 ハイジで見た憧れのチーズ料理
またしても道に迷ってしまった。
東京荒川区の日暮里。江戸時代、道灌山(どうかんやま)や諏訪台といったこの辺りの台地は江戸の町から富士山まで見渡せる景勝地として名高く、日が暮れるのを忘れて見入ってしまうことから日暮里の名がついたほどだったという。今は都内屈指の寺町であり、昭和の町並みが残る谷中も近いことから、人気の散策エリアとして賑わっている。
なぜここに来たのか、それは友人たちとの会話が発端だった。「子どもの頃、アニメや映画に出てきた料理に憧れたよね」。その一言が場を盛り上げる。『天空の城ラピュタ』の目玉焼きトーストに『はじめ人間ギャートルズ』のマンモス肉……。そういえば昔、『クレイマー、クレイマー』でダスティン・ホフマンが作るフレンチトーストを自分でも真似して作ったっけ。
その中で全員が「憧れた!」と一致したのが、テレビアニメ『アルプスの少女ハイジ』に出てきたチーズをのせたパンだった。おじいさんが暖炉でチーズをあぶってパンにのせる。シンプルな料理だがトロトロに溶けたチーズをほおばるハイジがたまらなく羨ましかった。ただのチーズパンとは言い難い魅力を持つあの食べ物は何なんだろう。
そもそも原作となった『ハイジ』は、19世紀のスイス人女流作家ヨハンナ・シュピリ著作の世界的に有名な児童文学作品。ハイジの住む山小屋や牧童のペーターが山羊を世話する様子は当時のアルプスの暮らしそのもので、1世紀以上を経たいまもその情景は大切に受け継がれている。そんなスイスを象徴する少女が食べるあの食べ物には、スイス人の思いが込められているかもしれない。それを確かめるためにやってきたのが日暮里である。
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