私は、その汗と死との因果関係を必死に考えた。
考えられるとしたら、汗のかき過ぎによる脱水死か――。
けれど、汗をかくと同時に喉も渇くので、意識しなくても水分は取っている。
とすれば……、いったいなんなのか?
まったくもって想像がつかない私に、トーニャは再び言った。
「気温がマイナスの世界で、下着を汗で濡らしてしまうと、たちまち体温が奪われてしまって、それが原因でハイポセラミア(低体温症)になることもあるのよ」
そう言えば、私の背中はまだ湿っていて、ときどきゾクッと悪寒を感じた。
さらにトーニャは話を続けた。
「たとえ下着の一部だけが汗に濡れたとしても、その部分が凍って凍傷を起こすこともあるの」
家が近ければ、すぐに下着を取り替えることができるけれど、これが長い犬橇の旅の途中だとしたら、うっかり汗もかけず、十分に気をつけなければならないことなのだと言う。
それに犬橇というのは、車のように乗ってばかりいるのではなく、マッシャー自身が橇から降りて、犬たちと共に走らなければならないときもあるし、先頭で雪道を開かなければならないときもある。
密閉性の高い分厚い防寒服を着ながら激しい運動を余儀なくされることも多い。
そんなとき、がむしゃらになって、うっかり汗だくにならないように、自分で意識をして、体温の上昇や発汗をコントロールしなければならないのだ。
「とにかくアラスカの冬はね、一生懸命やらない――、が鉄則よ」
トーニャは、ニコリとして言う。
そう教えられた私は、次から汗が噴き出さないように意識して動いてみた。
これが結構難しい。
普段と同じペースでやっているとたちまち体が燃えてくるのだ。