第62話 どんと一生懸命! 厳冬&酷暑の鉄則

 もともと私は、ぱっぱ、テキパキ、何でもさっさとやってしまいたい方で、田舎から東京に出るようになってからは、都会の早歩きも覚えてしまっていた。

 仕事の遅い人などを見ていると、歯がゆくなって、手を貸して他の人以上に働いてしまうこともある。

 そんな私が、汗が噴き出さないペースで動くには、かなり動作スピードを落とさなければならない。

 それを意識するのは、ある意味、修行のようなものでもある。

 心の余裕というか、自分をコントロールするための冷静さや落ち着きというものを、改めて身につけなければならない。

 歩くときは、1歩、1歩、ゆっくり。動作も作業も、ゆっくり、ゆっくり。急がない、急がない。

 と、何度も言葉に出して自制してみるが、ついついドカ靴、完全密閉防寒服でスタスタと足早に歩いていたり、無意識になるとせっせと働いていたりする自分にふと気付くと、これは悲しい日本人のサガだなあ~と、私はつくづく思った。

「おっといけない……」

 と、ハタと立ち止まって、いきなりスローモーションになる私を見て、トーニャは笑いながら再び念を押すように言った。

「それができないと……、あなたを犬橇の長旅に連れて行くことはできないわね」

 なになに……、それはマズイ。

 私は1日でも早く、犬橇の旅に出たいのである。

 という訳で、私は決心をした。

 トーニャの言う、厳冬で生きるコツ、『一生懸命にやらない』をマスターできるように、一生懸命頑張ろう!――と。

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つづく

廣川まさき

廣川まさき(ひろかわ まさき)

ノンフィクションライター。1972年富山県生まれ。岐阜女子大学卒。2003年、アラスカ・ユーコン川約1500キロを単独カヌーで下り、その旅を記録した著書『ウーマンアローン』で2004年第2回開高健ノンフィクション賞を受賞。近著は『私の名はナルヴァルック』(集英社)。Webナショジオでのこれまでの連載は「今日も牧場にすったもんだの風が吹く」公式サイトhttp://web.hirokawamasaki.com/