第60回 コスタリカに戻ったら、手のひらネズミが待っていた

 日本からコスタリカ・モンテベルデの家に、2カ月半ぶりに戻った夜のこと。玄関のカギを開けようとすると、中で物音がする。

 そっとドアを開けてみると、ぼくの帰りを迎えてくれたのは、5匹の小さなネズミたちだった。体長は約5センチで、しっぽは10センチほど。まだ幼いワトソンキノボリネズミだ。乳離れしたところだろうか。床をちょこちょこ動く姿がなんとも愛らしい。

 本で調べてみると、ワトソンキノボリネズミはおとなしいネズミで、コスタリカとパナマだけにすむ固有種。夜行性で木に登ったり地上で活動したりし、よく森の小屋なんかにすみつくとのこと。生態はまだほとんどわかっていないそうだ。

 半年ほど前、屋根裏からガサゴソと大きな音が聞こえるようになったので、屋根をはがしてみると、ワトソンキノボリネズミの大きなお母さんと赤ちゃんがいた。捕獲して、森の奥に放したことがある。

 今回は、ぼくがいなかったからだろう、屋根裏でなく部屋に堂々といた。突然の人間の出現に、あっけにとられたかのように、ネズミたちは立て掛けていた高枝切りバサミの柄をよちよちと登り始めた。幼いせいか、あまり警戒心は強くないようだ。

 ネズミが向かった先は、棚に置いた段ボール箱。中には、繊維製の空き袋や包み紙などが入っていたのだが、ネズミたちはそれらに木クズなどの繊維を混ぜて、ボール状のクッション(繊維のかたまり)を作っていた。マッシュルームのような、木の発酵したような匂いがする。そこを寝床にしているようだ。

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ワトソンキノボリネズミ(哺乳類:ネズミ目:キヌゲネズミ科)のお母さんと赤ちゃん
A mother and baby Watson's climbing rat, Tylomys watsoni
屋根裏にいた親子を捕獲して、森へ放したときの写真。別れを惜しむようにこちらを見つめる母親と乳房にしっかりと吸いつき、ぶらさがっている赤ちゃん。母親の体長は24センチ。
撮影地:モンテベルデ、コスタリカ(写真クリックで拡大)