「あの2匹は、たまたまロッジが近かったから自分たちの寝床に帰ってしまったけれど、もしもこれが奥深い森の中で孤立した状態だったとしたら、犬たちを放しても、どこにも行かずに主人や仲間たちと一緒にいることを選ぶわね。彼らは、仲間意識がとても強いの。マッシャーと橇犬たちは家族なのよ。どんな時も一緒。万が一、死ぬことになれば、死ぬのも一緒。それが、アラスカの奥深い森のマッシャーの覚悟よ」

 私はその言葉に、トーニャの犬橇に対する屈強な思いを感じた。

 実は橇犬は、よくレンタルされている。

 個人レベルで、多数の犬たちを飼い、しつけることが容易ではないからだ。

 毎年行われているような有名な犬橇レースであっても、橇犬を多く育てている犬舎(ケンネル)から犬を借りてきて出場する人も少なくない。

 それもちゃんとしたビジネスになっていて、優秀なリーダー犬や俊足の犬など、レンタル料が高いのである。 

 そんな話を聞くと、まるで無機質なレンタカービジネスと変わらないではないかと、私などは思ってしまう。

 例えば、毎日世話をすることによって、それぞれの犬の性格が分かり、犬たちの体力的ポテンシャルを把握することができるのに、その過程を踏んでいないために、ついつい犬たちのことが理解できずに無理を強いてしまったり、酷使してしまったりということが起こる。

 それによって、うっかり死なせてしまうようなこともある。

 私はふと、日本での仕事を辞めて、カナダに渡って馬の世話を始めた頃のことを思い出した。

 当時の私に、馬の乗り方を教えてくれたカウボーイ夫妻など、いつもこんなことを言っていた。

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