第61話 死という運命を、共にできるか?

「馬に乗るということは、生き物に乗るということ。毎日世話をして、コミュニケーションをとって、お互いに理解し合ってこそ、その馬の背中に乗せてもらえるんだよ」と。

 昔は、慈悲もなく馬車馬や橇犬たちをこき使って、過労死させることも多くあったという。

 けれど今はもう、そういう時代ではないのだ。

 犬橇であれ、乗馬であれ、生き物に乗るには、互いの理解が不可欠。

 心を通わせるような関係がなくては、馬の背中や、犬たちが必死で引く橇に乗ってはいけないのだ。

 私は厳格なまでにも、そう思うのだ。

 きっと、トーニャも同じ思いに違いない。

 私には、実はトーニャと出会う前に、犬橇レースに出場するような犬たちの世話をするドッグハンドラーにならないか? という誘いがあった。

 けれど私は、レースという時間や順位を競う世界に、あまり魅力を感じなかった。

 それよりも、トーニャのように、犬たちと家族のような絆を育みたかった。

 だから、その話は丁寧にお断りをした。

 トーニャは再び強い言葉で言った。

「犬たちは、車や船、エンジンが付いているようなものとは違う。命だから……」

 トーニャの覚悟は、ある意味、強い優しさなのだな、と改めて思った。

 そして、同い年ながらトーニャが私の師であることに、誇りを感じた瞬間でもあった。

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つづく

廣川まさき

廣川まさき(ひろかわ まさき)

ノンフィクションライター。1972年富山県生まれ。岐阜女子大学卒。2003年、アラスカ・ユーコン川約1500キロを単独カヌーで下り、その旅を記録した著書『ウーマンアローン』で2004年第2回開高健ノンフィクション賞を受賞。近著は『私の名はナルヴァルック』(集英社)。Webナショジオでのこれまでの連載は「今日も牧場にすったもんだの風が吹く」公式サイトhttp://web.hirokawamasaki.com/