冬から春にかけては、メス犬たちの発情期でもある。

 シーズン中に、メスたちのヒートが重なるのは避けられない。

 だから、そういったことを踏まえてチームを編成し、上手く橇犬たちを操るのが、マッシャーの腕でもある。

 前もってヒートしていることが分かっていれば、もちろん、その犬を起用することはないが、どの犬が、どのタイミングで発情するかまでは、いくらなんでも分からないのが実情だ。

 どんなにベテランのマッシャーでも、メス犬のヒートによるトラブルは皆無ではないし、有名で大きな犬橇レースの大会においても多々ある。

 だから、メスのヒートは、不可抗力と言っていいのだけれど、この夜のトーニャは、ちょっと浮かれていて、先を急ぐことばかりを考えていたのだ。

 もしかすると、もっと冷静に犬たちを見ていれば、ピッコロがヒートしている可能性があることに気づくことができたかもしれないし、そうであれば、リスク回避のために、オスだけの編成チームで行くことを考えたかもしれない。

 しかしながら、オス犬たちも、まったくもって、たまったものじゃなかっただろう。

 一心不乱、一生懸命、純情一直線に、ただまっすぐに走っていたのに、いきなり、オスの本能をくすぐるようなフェロモンがムンムンと漂ってくるのだから……。

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