第60話 激しい恋の告白で、危うく遭難!

 実は、前の晩に降った雪で、ミンチュミナ湖氷上の橇やスノーモービルの跡が、みな消えてしまっていた。

 氷原を走るエスキモーの伝統的な犬橇のやり方とは違って、現代の橇犬は、すでに付けられた道や残っている踏み跡などを辿って走るように教えられているから、道のないまっ平らの雪原になると、どこを目指し、何を頼りに走ればいいのかが分からず、走ることができないのである。

 本来こういった場合には、マッシャー自らが橇から降り、犬たちの先頭を歩いて方向や道跡を探さなければならないのだが、トーニャは、長年の勘だけを頼りに、暗闇のなかを走り続けていたのだ。

 そして、トムさんが見つけたときには、トーニャたちは、気温が下がる暗闇のなかで、道を失い、まるでさまようように右へ左へとジグザグに広大なミンチュミナ湖の氷上を走っていたのだという。

 とにかく今は、トーニャも犬たちも、穏やかに眠りについていると、ペニーさんも安堵のため息を付いていた。

 それを聞いて、私もただただ、ほっとするばかりだった。

 それにしても、トーニャが帰ってきたら、まだまだ聞きたいことがある。

 心配でいろいろと考えすぎた私は、この夜、なかなか眠れなかった。

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つづく

廣川まさき

廣川まさき(ひろかわ まさき)

ノンフィクションライター。1972年富山県生まれ。岐阜女子大学卒。2003年、アラスカ・ユーコン川約1500キロを単独カヌーで下り、その旅を記録した著書『ウーマンアローン』で2004年第2回開高健ノンフィクション賞を受賞。近著は『私の名はナルヴァルック』(集英社)。Webナショジオでのこれまでの連載は「今日も牧場にすったもんだの風が吹く」公式サイトhttp://web.hirokawamasaki.com/