バードクリフの下から見ると、頂上は礫がゴロゴロした荒々しく険しい雰囲気が漂っています。この断崖絶壁のおかげで南から吹く風が遮られているものの、頂上に登った瞬間に風が吹き付けてくるに違いない・・・覚悟を決め、地形図を見ながら、アタックできそうなラインを決め、ゆっくりと慎重に登っていきました。
頂上に辿り着くと、目の前に現れたのは下から想像していた世界とは全く違う、まるで天国のような光景。真っ白なチョウノスケソウの花が無数に太陽の光を反射し、キラキラと穏やかな風で揺れていたのでした。振り返ると、眼下に切り立った崖と海が見下ろせ、海を隔てた向こう岸には氷河と山々が連なっています。空が近いこの場所で、信じられないような花畑の中、少し歩くと、突如目の前に若いトナカイが現れました。陽光に照らされたトナカイは、神々しくもシルエットが光で縁取られていました。ますます異世界に迷い込んだ気分になった私は、トナカイも人間の言葉を話せるような気がして、
「やぁ。調子はどう?」
なんて、ついつい話しかけてみたのです。
しかし、トナカイはしゃべるわけもなく、一目散に逃げていき、夢見心地だった私はやっと正気に戻ったのでした。