特別編 田邊優貴子「北緯79度なう! 後編」

 最近はすっかり衛星が発達して、日本の研究室の中にいてもリアルタイムに世界各地のデータを得られる時代になっています。もちろんこれはこれで効率的で素晴らしいことですが、それだけでは絶対に分からないことのほうが確実に多いのです。いくら論理的に仮説を立てて、それを検証しようと緻密に研究をデザインして進めていったとしても、野外調査をしていくと予想外のことがしょっちゅう出てきます。

 例えば、(さっきのバードクリフに登頂した話もそうですが)南極の湖に1年間設置した水中データを記録するロガーを繋いでいたフロートが冬に発達した氷に飲み込まれて、氷の動きとともに湖内を縦横無尽に動き回ってしまったこともあります。おかげで、取れたデータは全くもって意味不明・・・。

 これまでの10年間のデータから、氷は最大1.5mまでしか厚くならないと分かっていたので、余裕を持って水面から深さ2m弱の位置にフロートが浮かぶように設計したものの、この年は氷が2m以上もの厚さになってしまったのです。こんなことは予想をはるかに越えた事態で、一見ただのガッカリでしかないのですが、氷がそれほどまでに分厚くなるのだという事実の発見でもありました。

 他には、大陸性南極の湖には動物プランクトンさえもいないと世界中で信じられてきたのが、実際に調査してみるとウニョウニョと動き回る動物プランクトンがいて「ぎゃあっ!」と現場で悲鳴を上げたこともあります。他にも、何の発見もなくタダの失敗になってしまった切ない思い出など、挙げれば大小さまざま、キリがありません。