インターネットとデジタル機器の発達で、写真の世界は大きく変わりつつある。新しい時代の写真とは、写真家とは?

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デジタルで変わる写真の世界

インターネットとデジタル機器の発達で、写真の世界は大きく変わりつつある。新しい時代の写真とは、写真家とは?

文=ジェームズ・エストリン

 スマートフォンのカメラが爆発的に普及した今では、誰もが写真家、それも、そこそこ腕の良い写真家になったと言えるだろう。
 珍しいニュースから日常の出来事まで、人々は何でも写真に撮ろうと躍起になっているようだ。写真はアルバムに収めるのではなく、世界中の友人や見知らぬ人々と共有する。

 プロのフォトジャーナリストでさえ、スマートフォンのカメラを使い始めた。相手にカメラを意識させず、自然な瞬間を撮りやすいからだ。作品は旧来のマスメディアではなく、Instagram(インスタグラム)のようなインターネットの写真共有サービスに投稿し、無数の人々に向けて自ら発信する。

 大量の写真が毎日インターネットに掲載されるようになり、一枚の写真が長く話題になることはなくなった。ベトナム戦争でナパーム弾から逃げる裸の少女をとらえた写真家ニック・ウトの一枚は、発表から数十年を経た今も、人々の心に残っている。近年そうした記憶に残る写真が少ないとすれば、それは良い写真が多すぎるからだ。

 大きな事件を知る方法も変わった。たとえば、ボストン・マラソンの爆破テロ事件で警察に手がかりを提供したのは、街中に設置された防犯カメラだった。エジプトでデモが起きたとき、携帯電話を持った一般市民が、その様子をいち早く伝えた。

 デジタル時代の写真は、一見わからないように加工され、現実を“より良く”見せる作品に仕立てられている場合もある。写真が現実をそのまま写したものかどうかを判断するのは、もはや至難の業で、発表しているメディアや写真家が信頼できるかどうかを基準に見極めるしかない。

 今ではスマートフォンのアプリを使って写真を加工するフォトジャーナリストもいるほどだ。色彩を強調したり、明るくしたり、退色させてレトロな色調にしたり。こうしたアート作品のような写真は、カメラの前の現実の記録というよりも、撮影者がどう感じているかを伝えていると考えたほうがいいのかもしれない。
 写真は元来、主観的なものではある。構図やレンズといった、いくつもの判断の結果が一枚の写真なのだ。それをアプリで加工したからといって、真実味がなくなるだろうか。
 芸術写真家のなかには、世界各地の道路沿いの風景を公開するグーグルのサービス「ストリートビュー」から目を引く画像を選び、コンピューターの前から動くことなく“自分の作品”を制作する人までいる。もはやカメラは写真家を必要としなくなったのか。また、写真家はカメラを必要としなくなったのだろうか。

 これはある意味、デジタル時代が社会に突きつける刺激的な実験ではないか。デジタル機器という新たな道具を手にした市民は、既存のメディアに頼ることなく、ニュースを独自の視点で手軽に発信できるようになったのだ。
 こうした「写真の民主化」は、民主主義自体にとっても良いことかもしれない。何億人という潜在的な市民ジャーナリストが世界の距離を縮め、指導者に説明責任を果たさせる力となっている。テヘランやイスタンブールの人々は、今や自分たちが何と戦っているのかを世界中に示せるのだ。一方で体制側は自らの行動を隠しづらくなった。誰もがカメラを持つ時代には、監視は独裁者の専売特許ではなくなる。

 もしかすると私たちは、万国共通の“視覚言語”が生まれ育っていく様子を目撃しているのかもしれない。それは人と人との関係や、人と世界とのかかわり方を変える可能性すらある。

※ナショナル ジオグラフィック10月号から一部抜粋したものです。

編集者から

 誰もが手軽に写真を撮れるようになり、フェイスブックやインスタグラムで無数の写真が共有されている現代。「もしかすると私たちは、万国共通の“視覚言語”が生まれ育っていく様子を目撃しているのかもしれない」という、筆者ジェームズ・エストリンの分析は興味深いですね。写真は、家族や友人、外国の見知らぬ人と交流するための共通言語のような役割を果たしつつあるのでしょうか。(編集T.F)

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