地に這うように咲くムラサキユキノシタ(写真クリックで拡大)

 7月4日、小型飛行機で降り立ったスヴァールバルのツンドラの原野には、足首ほどの背丈しかない色とりどりの小さな花々が一斉に咲き乱れていました。真夏の太陽で融け出した雪と氷河からできた無数の濁流がうねる大地、小さな虫が花の近くをひどく鈍い動きで飛び交い、トナカイやグースたちがコケや草花をムシャムシャと食み、ホッキョクギツネがウロウロ、空にはキョクアジサシがヒラヒラ。生き物たちの熱気で溢れ返っていました。

 さて、私がここにきたのは、植物の調査をするため。
 ツンドラの植生は、氷河が後退して出来た裸地に植物が侵入・定着して、時間をかけて徐々に発達してきました。つまり、海側から氷河のある山側に向かって、氷の下から露出した時間の順になっています。氷河に近くなればなるほど最近になって露出した地点というわけです。おかげで、氷河の近くに生えている植物はかなりまばらで数少なく、海側に近くなるとフカフカの豊かな植生で埋め尽くされています。

 フカフカの植生発達帯には様々な種類の植物がひしめき合っているのですが、氷河近くのまばらな植物たちを観察してみると、ある決まった種ばかりが生えていることが分かります。そう、彼らはまだ見ぬ土地へと生息範囲を拡大する能力に長けたパイオニアなのです。このパイオニアたちがいち早く入り込んで定着し、徐々に土壌と栄養が蓄積されていって他の種も生育できるような環境に変遷していくのです。

じゃれ合うホッキョクギツネ(写真クリックで拡大)

この連載の前回の
記事を見る

この連載の次の
記事を見る