第8回 冬を乗り切るモンゴルのパワー食
草が調味料の役割を果たしているのかもしれないね、とチンゲルトさん。とはいえ遊牧民の冬の食事は、このチャンサンマハとスーテー茶(塩入りミルクティー)が中心。春になって肉の保存ができなくなると、残りの肉を干し肉にしてかじりながら、乳製品を食べて次の冬まで過ごす。小麦粉が流通してからはうどんやボーズ(羊の肉入り蒸し饅頭)も食べるようになったが、野菜はほとんど食べない。
そんな偏った食生活でも、馬の乳で作るお酒「馬乳酒」にビタミンCが含まれていたり、チーズからカルシウムや亜鉛を摂取したりと、栄養バランスは上手く成り立っているらしいが、そもそも毎日同じ羊肉で飽きないのだろうか。
そう問うと、「日本の生活も長いし、和食は美味しくて刺身なんかも大好き。でも、やっぱり羊の肉を食べないとパワーが出ないし、食事をした気がしない。だから今も毎日のように食べています。日本のお米みたいになくてはならないものですね」とのお答え。モンゴル人はみんな同じなのだろうか、店には定期的にチャンサンマハを食べに来る力士もいるという。
モンゴル人は羊の肉を食べながら何百年にもわたって命を受け継いできたのだ。そういえば小さい頃、ご飯粒を残すと親に「農家の人が一生懸命作ったのだから一粒残さずに食べなさい」と怒られた。日本人も弥生時代から稲を作り、米を食べ続けている。遊牧民と農耕民族の違いはあれど、その食べ物に宿るスピリットは同じなのかもしれない、と羊肉を食べながら思う。
「でも、モンゴルの食も最近はだいぶ違ってきていますよ」とチンゲルトさん。「私は遊牧民だったので羊とともに暮らし、毎日その恵みをいただいてきたけれども、都市部の人たちは野菜や魚も手に入るからいろいろなものを食べているんです」
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