まず大きな焚き火をつくる。それをしっかり燃やし、力強い「おき火」を作る。

 その一方で羊を1頭皮をむき、太い鉄の棒の十字型に羊をくくりつける。

 焚き火にむかって斜めにそれを立て、ゆっくり焼いていく。だから丸焼きというにはちょっと感覚がちがっていて、日本的にいえはイロリの端で串にさして火に対して斜めの角度で焼くスタイルを数百倍でっかくしたようなものと思ったら間違いはない。焼く係はベテラン1人。よくある焚き火料理のようにまわりにいる親父全員がああだこうだといろんなことをいって全体がめちゃくちゃになってしまう、というようなことにはならない。

 途中で何度も裏返し、ある種の草の束で水をなすりつけ、焼けぐあいの調整をする。焼きあがるまで大体2時間ほどかかるが、それを見はからってガウチョやその家族たちがあちこちから集まってくる。同時にいつのまにかビノと呼ぶ赤ワインが大量に持ちこまれている。普段さして娯楽のないこういう辺境ではこの「食うパーティ」は貴重なようだ。

 みんなが赤ワインを飲み、片手にナイフを握ったあたりで、羊焼きのプロが「よし焼けたぞ」というようなことを言う。

 全員、片手に握ったナイフでここぞという狙いのところをえぐる。カリカリになった表面の皮と、その内側の脂肪、さらにその内側の肉を「1対2対3」ぐらいのわりあいでえぐって食うのがつまりは“羊食いの名人”のようだ。

 みんな生まれたときから食べている味だろうに、パタゴニアに暮らす人々は全員この丸ごと1匹焼き(というかヒラキのじっくり焼き)には目がないようだった。

 みんな腹いっぱい羊を食い、ワインを飲んでいる。興がのると中学生ぐらいの子供もワインを飲みだした。1人の少年がかぶっていた自分のテンガロンハットをうつわにして大人たちからワインを貰っていた。パタゴニアの夕方は長い。みんな心から楽しそうだった。

この連載の前回の
記事を見る

この連載の次の
記事を見る