第18回 雪の峠越え パタゴニア馬の旅(2)

 馬と一緒に墜落。

 視野がヘンに狭くなり、それも「死」を濃厚に予測させた。

 結果的にそのようにして数分間、どうしていいかわからずじっと動きをとめて(とまって)いたのがよかった。ぼくがやってくるのがあまりにも遅かったのでぼくの前を進んでいたピエールが戻ってきて、事態を理解。馬を降りて、ゆっくり斜面をあがってきて、まず馬を落ちつかせ、ゆっくりゆっくり後退させていったのだ。ぼくは視線の端でそれを見ていたが、やっぱり何もできなかった。

 その馬はピエールの持ち馬であったから、馬も落ちついてピエールの指示に従ったのだ。安全なところに着いたとき、ぼくは地面にへたり込み、しばらく立ち上がることができなかった。首の硬直もしばらく治らなかった。けれどとんでもない窮地を脱出できた、という実感があった。

 そのあとはゆっくり進んだ。幸い尾根を降りていくルートに入っており、馬も安定してきていた。30分後に最初の目的の山小屋に到着。荷駄はおろされ、人間を乗せてきた馬は装具をとかれた。そういうところにくると馬はあちこち散らず、ひとかたまりになっている。

危険な崖道を通り過ぎ、目指す宿営地まではわりあい楽なルートになる。(撮影:椎名誠)(写真クリックで拡大)