第18回 雪の峠越え パタゴニア馬の旅(2)

 ぼくはいつのまにか傾斜のさらに急な迷い道に入っていて、その先のルートがもうないことに気がついた。

 ガウチョが「それだけは気をつけろ」と言っていたことをそのままやってしまったのだった。

 ぼくが一番最後を行っていた。運悪くそこはいくらかカーブになっていて、100メートルぐらい先を行っているガウチョからは見えない位置にある。ぼくはどんどんそれが深刻な事態になっていることを知った。馬そのものが進退極まって焦っているのがわかるのだ。雪のついた岩道の細い急斜面では蹄が滑り、バックさせるのは危険だ。ターンすることもできない。ぼくが馬から降りてしまうことも考えたが、馬は馬の左側から乗り降りするようにしつけられている。しかし斜面の途中で進退極まっているのだから馬の左側(谷側)から降りようにもぼくの足がとどかない。反対側の馬の右側から降りようとすると馬が暴れる危険がある。馬からぼくの全身が離れていないかぎり、馬のどこかの装備(鐙など)とともにぼくも墜落していくのが見えている。斜面の高さはその位置で120メートルぐらいあった。万事休す。

 そのときぼくはいきなり「死」を覚悟した。あっ、これは死んでいくケースだ。そう思った。

 人間がかなりの確率で「死」を意識したときどうなるか。そのときぼくは知った。

 頭の後ろがわの下、頸椎といわれるあたりだろうか。そのあたりが急速に硬直していくのである。首が左右にも前後にも曲がらない状態になり、全身が「カッ」と熱くなった。