第18回 雪の峠越え パタゴニア馬の旅(2)

 ぼくがあてがわれた馬は灰色の馬高の高い力強いやつだった。もうその頃になるとぼくは世界のいろんなところでいろんなタイプの馬に乗り、数日間の馬の旅などもいろいろしていたので、ぼくにはたいへん気持ちの高揚するすばらしい馬の山旅であった。

 最初は川沿いに続く端のルートを行く予定だったが、その年は氷河解けの水が多く、その川沿いルートは半分通行不可になっていた。そこでいきなり谷の斜面のかなり傾斜のあるルートから次第に高度をあげ、最終的に連なる山のてっぺん近くを走る崖道を進んでいく、見晴らしはいいが、高所恐怖症には腰竦(すく)みもののルートを行くことになった。

 ガウチョから注意されたのはただひとつ。馬もそういうルートを行くのは怖いから、ややもすると上のほうにむかう逃げ道にいこうとする。そのあたりにくると雪は積もっているし、道は岩だらけだから、馬は足を踏み外すとまっさかさま、ということを本能的に知っている。だから山の上にむかう道にはいかせないようにするのが大事だった。

 なぜなら山の上にむかう道は必ず中途で消えてしまう迷い道なのだった。そんなところに入り込んでいったらもう回転して坂道を戻ってくることはできない。途中でバックするのも蹄が雪のついた岩で滑りやすく、危険である。もともと馬はバックギアがついていないからそのまま後戻り、というのは苦手である。その頃になるとぼくも馬をそのままバックで走らせる方法は知っていた。馬のたづなを引いて、軽く腹を足で蹴る。アクセルとブレーキを一緒にかけるようなものなので、普段から何度か練習し、慣れている馬でないとなかなか難しい。ましてや雪のついている山の傾斜した道で、60度ぐらいの崖の道。落ちたら100メートルぐらいまっさかさまだ。

 ぼくはそのミスを犯してしまった。ついついあたりの風景に驚嘆し、小型カメラで写真など撮って進んでいたからであった。