第18回 雪の峠越え パタゴニア馬の旅(2)

 日本を出たのはまだ夏のさかりだったが、ここでは冬を迎える季節で、山は日増しに雪が深くなっている。山小屋もあと5日で閉鎖されるというギリギリのときだった。

 3人のガウチョと1人の案内人。馬は9頭いた。空馬4頭は来年再開する山小屋の燃料や必要な生活物資を積んで帰りにいらないものを持って帰る、という仕事があった。そのルートには最後に到達するフランス氷河まで氷河はなかったから数年前に体験したようなもう少しで「あわや」という「氷河雪崩」の心配はなかった。ピエールというガウチョの1人はセロカステーヨの食堂兼プチホテルに勤める娘と結婚し、妻のお腹には子供ができたばかりだった。

 山岳地帯を行く馬の荷物の積み方をはじめてみたが、いろんな形の違うものを頑丈な網袋にいれ、それを空馬の鞍に左右均等になるように乗せて固定する。そうすれば少々の勾配や荒れ地でも馬は荷動きに左右されず進んでいける。

 そういう荷物を積んだ馬を人間たちが乗った馬の前を走らせる、というやりかたが面白かった。いっけん広大でどこへでも逃げていけるように見えるパンパだが、実際には安定したルートは自然に決まっていくようで、荷物を積んだ馬は、人間が先導しなくてもどんどん正しいルートを走っていくのだった。

 人間が先にたち、引き綱で馬を引っぱっていくよりははるかに合理的であり、常にガウチョが荷駄馬全体を見張っていける賢いやりかたなんだな、と感心した。

 そうしてどんどん山岳地帯に入っていく。

荷駄馬の群れを先に行かせて我々は草原を突っ切って行く。(撮影:椎名誠)(写真クリックで拡大)