第18回 雪の峠越え パタゴニア馬の旅(2)

 広大なパタゴニアだが、それは大きく分けて、入り組んだ海峡と島々、氷河を抱いた切り立った山々、そしてとてつもなく広大な不毛と言われる原野の3つに分かれるだろう。

 不毛の原野といいつつ平坦な草原は数多くの牧場による家畜の放牧が行われており、この広大な原野は「パンパ」と呼ばれてパタゴニアの陸地の代表的な顔になっている。

 パンパを行くとき、ぼくは馴染みのカルク牧場を拠点にしている。ここへ行くにはチリ南部の中心的な街プンタアレナスからクルマで4時間ぐらい飛ばす。チリのクルマは四輪駆動車が普通だが、長距離をいくクルマにはフロントガラスの前に頑丈な鉄の網がついている。これは風の強いパタゴニア独特の必須仕様で、向かい風の道を行くとき、風が小石をまきあげクルマに激しくぶつかってくる。突進してくる風と突っ走っていくクルマがぶつかるとしばしばガラスが割れる。そのための防護だ。投石を避けるための日本の警察機動隊の車を見るたびにパタゴニアのクルマを思いだすヘンな癖がついてしまった。

 途中にセロカステーヨという小さな分岐点の集落がある。季節になると羊の毛刈りのために賑わうがそれ以外は3、4店の商店が生活物資を扱っていて、全寮制の小学校がひとつ、それに食堂が1軒ある。

 1983年に最初のパタゴニアの旅。そこに行けばなんとかなるだろう、と思っていた宿が1軒もなくまったく「なんとかならなかった」。

カルク牧場に行くとき必ず通過するセロカステーヨ。いつ行っても人口100人だ。(撮影:椎名誠)(写真クリックで拡大)