第7回 辛いほどに懐かしいタイの味
「この辺りは以前、スナックなどの飲食店が多くてタイの女性がたくさん働いていました。でも不景気で店がどんどんつぶれてしまって。職を失ったタイ人たちがタイ式のマッサージ店や料理店をやるようになったんです」
明治初期から繁華街として栄えた伊勢佐木町も、近年は横浜駅周辺やみなとみらい21エリアの開発などの影響で客足が減っている。アロムさんの話とともに、切なさを帯びた「伊勢佐木町ブルース」が耳の奥で流れる。
いやいやしかし、しんみりしても暑さで吹き出る汗は変わらない。缶ジュースで乾いた喉を潤してから、アロムさんにソウルフードを尋ねた。
「ソムタムですね」
なんだか、ゆるキャラにいそうなかわいいお名前。タイ語でソムは「酸っぱい」、タムは「叩く」という意味だとか。どんな料理なのか聞くと、「今から作るから見においで」と台所に案内された。
作業台の上に小皿に入った材料が並んでいる。「主役はこれです」とアロムさんが指さしたのは、千切りにされた青いパパイヤ。ソムタムとは青いパパイヤを使ったサラダのことなのだ。メキシコなどアメリカの熱帯地域が原産のパパイヤは、甘く熟した実を食べることが多いが、タイやフィリピンなどの東南アジア、また沖縄では熟れる前の青い状態のものを料理の食材として用いる。
クロックと呼ばれる臼にニンニクを入れ、杵でトントントンと叩くようにして潰すアロムさん。唐辛子、ピーナッツ、ナンプラー、トマトと、材料をひとつひとつ入れながら全部叩くように混ぜていく。
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