貧しく混沌としたコンゴ民主共和国の首都では、生きることへの渇望が独創的なアートを生み出している。

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キンシャサ 脈動するコンゴの首都

貧しく混沌としたコンゴ民主共和国の首都では、生きることへの渇望が独創的なアートを生み出している。

文=ロバート・ドレイパー/写真=パスカル・メートル

 アフリカ大陸を流れるコンゴ川南岸に位置する芸術都市キンシャサ。面積650平方キロほどの都市部は、無数の生命がひしめく原始の海のように、人でごった返している。人口は約1000万人で、さらに毎年50万人ずつ増えているが、これだけの人々を養う力はこの街にはない。パンにする小麦すら外国からの輸入が頼りだ。

 キンシャサで長く人道支援に携わってきた専門家の一人はこう語った。「生きるのに必要最低限の食べ物は、ここよりも米国のほうが安く買えます。キンシャサはアフリカで、そしておそらくは世界でも最も栄養状態の悪い都市です」

 飲み水の水源となるコンゴ川とその支流には、都市から出る汚水がたれ流されている。舗装道路はほとんどない。住民の大半は学費が払えず、子どもを学校へ通わせていない。広大な国土をもつ国の首都でありながら、あらゆる都市機能がまひしている。政府機関もしかりだ。予算などなく、米国のある高官が「基本的には自己調達」とやんわり言い表したように、金のほとんどは賄賂や恐喝で手に入れている。
 前出の専門家もこう話していた。「特に警察は、ほぼ全員が賄賂に頼っています。警官をやっている理由はただ一つ、金のためです」

 貧困が深刻化し、政府が機能不全に陥った当然の結果として、キンシャサは無秩序な都市となった。だが、都会と村の要素が混在するこの街では、制度や組織への信頼が厚い先進国の発想は通用しない。
 その一方で、アフリカにありがちな苦悩や抑圧、絶望の物語とも一線を画している。ベルギー領だったこの国が独立を勝ち取ったのは1960年だが、モブツ・セセ・セコ大統領の独裁が長く続いた結果、公的機関や選挙で選ばれた指導者への期待はとうの昔に消えている。

アートが秩序を保たせる

 それでも人々が希望を捨てないのは奇跡と言えよう。起業家精神が渦巻くこの街では、誰もが何かのセールスマンであり、自称スペシャリストだ。掘っ立て小屋に暮らす画家のように、混沌から何かを生み出そうとしている。

 「キンシャサは、学生が勉強をせず、労働者が働かず、役人が統治をしない都市だ」

 こう書いたのは、国立芸術学院の院長を務めるライ・M・ヨーカだ。この文章を目の前で読み上げると、彼はにやりと笑った。「キンシャサの強みは二つあります。一つは部族のるつぼだということ。この街にはあらゆる部族が混在していますが、部族間の衝突はありません」

 もう一つは「創造性と即興性」だとヨーカは言う。
「よその人にはただの混沌状態にしか見えないかもしれませんが、私から見ればそんなことはまったくありません。ここでは、法律などではなく文化的な規範が“裏システム”として機能し、秩序が保たれています。私たちは持っているものを活用して、困難を切り抜けるんです」

 ヨーカが語るこの特質は、アーティストの感性にほかならない。
「アーティストは政府に頼ったりしません。芸術活動は、先の見えない苦しい生活に耐え、夢を見るための手段となります。そして激しい感情が創作への意欲をかき立てる。ここで言う感情には二つの意味があり、一つは苦難を耐え忍ぶ思い、もう一つはアートに対する強い情熱です」
 そう、それがキンシャサ。苦しみこそが創造の源泉なのだ。

※ナショナル ジオグラフィック9月号から一部抜粋したものです。

編集者から

 特にひかれた写真は、製パン工場からバゲットを出荷している人々のいでたちでした。どうでしょう、この色使い。ビビットな柄ものを品よくまとめた行商のおばさんたちが一幅の絵のように見えます。実は、ただいま編集作業中の10月号にも、再びコンゴの特集が登場します。今度は東部の鉱山で、服の色もわからなくなるほど泥まみれになって働く人々に目が釘づけになります。ぜひ、次号も読んでみてください。(編集H.O)

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