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- ナショナルジオグラフィック日本版
- 2013年9月号
- 失敗に学ぶ 成功に欠かせない苦い体験
失敗に学ぶ 成功に欠かせない苦い体験
探求につきまとう「失敗」は嫌われ者だが、実は成功や進歩に欠かせない存在として評価されつつある。
科学技術の可能性に心を奪われた一人のスウェーデン人技師が、19世紀の末、とんでもない挑戦を思い立った。水素気球に乗って、北極点へ空から一番乗りをしようというのだ。
探検家たちは長らく陸路から北極点到達を目指していたが、いまだ成功例はなく、大勢が命を落としていた。空から行けば、かなりのリスクを避けられるのではないかと、この男サロモン・アウグスト・アンドレーは考えた。
こうして1897年7月のある風の強い日、アンドレーは2人の若者とともにスバールバル諸島の小島で、直径20メートルの気球につけたかごに乗り込んだ。木製のそり、数カ月分の食料、連絡用の伝書鳩のほか、アンドレーが旅の終わりに着るつもりのタキシードまで積み込まれた。報道関係者や支援者たちが手を振るなか、人類未踏の極地を目指し、一行は旅立った。
離陸直後から、気球は風に翻弄された。霧が凍って着氷し、その重みで高度が下がっていく。彼らの気球、エルネン号(エルネンはワシの意)は北極海の海面や海氷の上をかすめながら、65時間半にわたって低空飛行を続けた。
それから33年後、アザラシ狩りの猟師がアンドレーらの凍った遺体を偶然に発見した。一緒に見つかったカメラや日誌から、気球は北極点から480キロ離れた氷上に不時着したことが判明。一行は南へ向けて3カ月間も歩いた末、ついに力尽きたのだ。
失敗があるから成功がある
失敗は、あらゆる探求につきまとう亡霊だ。誰にも望まれず、常に恐れられ、見て見ぬふりを許さない。だが手痛い失敗を通じて見直しを迫られなければ、進歩もまた望めないだろう。
ここへ来て、失敗の重要性への認識が高まっている。教育者は子どもたちがどうすれば失敗を恐れなくなるかと心を砕き、ビジネススクールでは失敗から得られる教訓を教えている。心理学者は失敗に対処する心の動きを研究し、成功のチャンスを高めようとしている。
そもそも英語のsuccess(成功)という言葉自体、「後から来る」という意味のラテン語に由来する。そして何の後から成功が来るのかと言えば、そう、失敗の後なのである。失敗と成功は切っても切れない間柄なのだ。
最悪の失敗ですら、次はやり方を変えたほうがいいと私たちに教えてくれる。「エベレストに挑んだ最初の4回の遠征では、どうやったら登れないかを学びましたよ」と、この世界最高峰に7度の登頂を果たした米国の登山家ピート・アサンズは言う。
「失敗は、アプローチに磨きをかけるチャンスを与えてくれるんです」
※ナショナル ジオグラフィック9月号から一部抜粋したものです。
この記事の末尾に、よく知られた大失敗の事例がリストにまとめて収録されています。
実はここで思いがけず、懐かしい名前に“再会”しました。お相手の名は「タコマ橋」。設計ミスがあだとなり、風と橋の共振現象がもとで崩壊したつり橋です。高校時代に物理の授業で記録映像を見せてもらったのですが、人や車を載せた橋が、まるであめ細工のように大きく波うつ様子に、思わず息をのみました。
崩落までの一部始終が映像として残っているのも衝撃でしたが、この詳細な記録があったことで、風による振動の研究がぐんと進んだそうです。(編集H.I)