第5回 あえて付けた「深海」の二文字

――先の話にもありましたが、飼育環境がよくわかっていないものも多いとか。すると、館内での飼育は、適正な飼育環境を見出すことから始まるのですか。

 もちろん、飼育例があるものはそれを参考にしますが、ないものは正直なところ手探りですね。経験を積み上げていくしかありません。その分、生きものには負荷をかけることになりますけれど。

 たとえば、非常に飼育が難しいメンダコで、当館は27日間という飼育記録を持っています。飼育例がほとんどない生きものなので27日間は世界記録です。

 水族館として、27日間の飼育が成功とは思っていません。これからは長期飼育を目指して、できることは全てやっていきたいと思っています。

――以前に出演されたテレビドキュメンタリーで「水族館のような人工的な施設で、野生の生きものを飼うことに抵抗はないか」と聞かれて「ない」と即答していますね。

 まったく抵抗がないかといわれると、やはり我ながら疑問符はつきます。深い海から連れてきた生きものを、飼育しきれずに死なせてしまえば、貴重な生命を消費することになるわけですから。それは、水族館や動物園の飼育係、生体を扱う研究者といった野生の生きものに携わる者なら、皆一様に抱いているジレンマだと思います。

メンダコ。吸盤が一列しかなく、スミも持っていない(写真提供:沼津港深海水族館)(写真クリックで拡大)