第1回 これは画期的!“生物を模倣したロボット”

「僕たちが、一番、注目しているものの1つがエネルギー効率なんです。効率のよい歩行の仕方で貢献したいと思っていまして。みなさん、驚かれますが、今、世の中にあるロボットは、『アシモ』のような人間型のものにしても作業用にしても、生物が同じことをするのに10倍から100倍ものエネルギーが必要なんです。アシモはとても優秀で10倍くらい。でも、ほかのものは100倍くらいというのは普通にあります」

 ぼくは純粋に驚いた。生物のエネルギー効率は一般に高いと言われているが、ロボットと生物のエネルギー効率がどれくらい違うかというのは視野の外だった。しかし、ひとたび指摘されると確かに! と思わされる。

「ロボットは歩くのが難しいと言われる理由の1つが、エネルギー効率があまりに悪いからなんですね。歩かせようと思うと、大きなバッテリーが必要になってしまう。アシモですら、確か30分か40分が限界でしたよね。ところが人間ですと、2、3時間、平気で歩くことができるし、がんばれば何10時間もいける。このギャップを埋めるのはちょっとやそっとのことじゃできないんで、全く違う考え方でできないかというのが今やっている設計論の1つなんですね」

 その「全く違う考え方」が、生物の構造に学び、いわば触発(インスパイア)された、ロボットということになる。

 ぼくが最初に見せてもらった歩行ロボットには、10キログラムの重りがつけられていた。つまり、10キログラムの荷物を運ぶことができる。

「実は、50キロくらいの荷物を運ばせたいんですね。重さに耐える素材を工夫しなければならないんですが。それができたら、人間が同じ重さの荷物を運んだ時のエネルギー効率と比べたいと思っています」

 さて、飯田さんが、ロボット大国日本をあえて離れ、異国で実現しようとしていることの方向性がなんとなく分かっていただけただろうか。

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つづく

飯田史也(いいだ ふみや)

1974年、東京都生まれ。スイス連邦立チューリッヒ工科大学准教授、バイオロボティクス研究室室長。理学博士。1999年、東京理科大学工学研究科修士課程修了。2006年、チューリッヒ大学理学部博士課程修了後、2009年まで米マサチューセッツ工科大学(MIT)ポスドク研究員を務めたのち、2009年から現職。併せてスイス連邦基金(SNF/FNS)のもとで生物をまねたロボット研究に携り、現在は特に自ら「成長するロボット」の研究に情熱を注いでいる。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。サッカー小説『銀河のワールドカップ』風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)はNHKでアニメ化され、「銀河へキックオフ」として放送された。近著は、独特の生態系をもつニュージーランドを舞台に写真家のパパを追う旅に出る兄妹の冒険物語『12月の夏休み』(偕成社)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider