「イエス、イエス、カンガルーですよね」

 私は、もう一度しっかりとズートの首輪を握り締めて、頭が腰上までくるように持ち上げた。

 けれど、ズートのやつはカンガルー跳びどころか、後ろ足を地面につけて歩く気もないようで、足がナメクジのようにふにゃふにゃの横ずわりになっている。

「こら、歩け!」
「こら、跳べ!」

 と、ズートをけしかけるが、まったくもって、くねくね甘えん坊ナメクジから正気が戻らない。

 すると、またも遠くからトーニャの、「カンガルー!」の声が飛んできた。

 仕方なく、私は引きずるようにしてズートを連れて来ると、壁にへばり付くナメクジをはがすように、私の足元からズートを引き離した。

 犬は、あと2匹。

 後ろのポジションを担う醤油顔のカーメルと、雑種のキワメツケ、フラックルである。

 が、またため息が出ることに、カーメルは、ドッグヤードの一番遠い端のほうに繋がれていた。

 若く逞しいオスで、これまた力が強い。

 骨太筋肉ムキムキの腕を持つトーニャは、犬たちをがっしっと抱えたまま、一切の自由を犬たちに許さず、速やかにラインに繋いでいる。

 が、私はというと、腕力も握力も弱く、まだ首を掴み上げるコツもつかめていないので、またまた、カーメル相手に、腕の関節技がかかって、タップ、タップ、マイッタ~となってしまった。

 こうなれば、両手で抱えるしかない。

 私は、カーメルの首輪を、相撲のマワシを取るように両手で掴み上げると、前足が浮くまで持ち上げた。

 本来、片手で掴み上げれば、犬の体が私の横にきて、歩くのに支障がないのだけれど、両手で掴んでいるものだから、犬の体が自分の正面にくる。

 すると、歩く度に、私の膝がカーメルの脇腹をドッスっと直撃していて、傍から見れば、まるで、こっそり膝蹴りを食らわしている「コノヤロー、オラオラ、カネダシナ~」不良ねーちゃんみたいになっているのだ。

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