第3回 シードラゴンの全滅で築いた信頼
彼は、ただ珍しい生きものを納入できればいいと思ってはいなかった。納入するからには、その生きものを水族館で可能な限り長く飼育してほしいと考えていた。だから、自分の持つ全ての情報を正確に伝え、水族館と協力しながら目標とする長期飼育を実現したい。それが彼の発表の真意だったんです。そのことに気づいたときに、私の意識も変わりました。
実は、水族館との取引は、海外のほうが先に広がったのですが、その国際会議から帰国してから、少しずつ海外の水族館からオーダーが来るようになりました。なかでも大きなきっかけとなったのは、アメリカのある動物園にリーフィーシードラゴン4個体を納入したことです。
リーフィーシードラゴンは、オーストラリア南岸の限られた地域にしか生息していない珍しい魚です。養殖個体しか流通は許可されてなく、当時で1個体40万円くらいしていました。
ところが、納入1週間後に4個体が全部死んだという知らせが来たんです。飼育の難しい生きものでもあるのですが、動物園の中の水族館なので飼い方がよくわからなかったのでしょうね。
とくに補償の義務はなかったのですが、僕は4個体分の費用全額を補償したんです。世界会議で言われた「何年この仕事をしていくつもりか?」というあの言葉が、僕の胸にありました。生きものをただ納めるのではなく、長く生きるように飼育してもらうことも僕の務め。