ふとユリアさんが立ち上がり、「ロシアではこんな飲み物もポピュラーなんですよ」と麦茶のような色合いの飲み物を出してくれた。「黒パンジュースです」という。
パンのジュース?と不思議に思いながらグラスを鼻に近づけると、おお、確かにジュースなのに黒パンの香りがする。飲んでみると液体なのにやっぱり黒パンのような風味。爽やかで美味しい。「作り方はヒミツ」とユリアさんは笑ったが、後で調べてみると黒パンをオーブンなどで乾燥させ、干しブドウと共にお湯に浸してしばらく置いた後、イーストと砂糖を入れて発酵させたものらしい。「クワス」と呼ばれるもので、特に夏の間よく飲まれるのだという。
生クリームをたっぷり盛ったものなど人気のアメリカ流パンケーキも美味しいけれど、さっぱり食べられるブリヌイとクワスの組み合わせは、日本の夏の食卓にもなじみそうです。
さて、実はロシアのお菓子を調べているうちに、とても興味深い名前のお菓子に遭遇した。「アリ塚ケーキ」(「ムラベイニック」と呼ばれる)。そう、あの昆虫のアリの巣をモチーフにしたケーキだ。
ユリアさんにも食べたことがあるかと聞いてみると、「もちろんあるわ」との答え。でも、格別ポピュラーなものではないらしい。作り方は様々ということだが、あまりにインパクトがある名前にロシア語のサイトをはじめとしてネットでレシピを検索、自分で作ってみました。
材料は、小麦粉、バター、砂糖、サワークリーム、加糖練乳とケシの実。小麦粉とバター、砂糖、サワークリームを合わせて生地を作るのだが、なんとこれを肉のミンチ機に入れ、ミンチ状にする。ネットで見るこのうねうねと細長い形状となった生地が、小学校のときに勉強したアリの巣の土中に広がるトンネルのイメージに重なり、かなりリアルにアリ塚を再現している気分になってくる。